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髙橋 泰
ヤマモ味噌醤油醸造元 七代目 髙茂合名会社 常務取締役
秋田県湯沢市出身。150年続く蔵元をリブランディングし海外展開を開始。七代に渡るレガシーを見出し、庭園やカフェ、ギャラリーを整備し、産業にインバウンドとアートを実装する。発酵を「生態系との共存」と捉え、都市開発と社会変革の文脈を取り入れ、伝統を創造性と美意識で再構築を進める。
取材日:2021年4月9日


東北の発酵が、世界の食文化を変革する
江戸の昔より交通の要衝として栄え、いまなお黒板塀の商家や町屋、蔵が立ち並ぶ湯沢市岩崎。風趣に富んだ街道、その中でもひときわ目を惹くのが、『ヤマモ味噌醤油醸造元』の堂々たる佇まいです。創業は1867(慶応3)年。皆瀬川の清冽なる伏流水を用いて始まった味噌・醤油の醸造は、150年を超えて愛され続けるとともに、七代目を継ぐ髙橋 泰さんの創造力と行動力によってさらに大きく進化し続けています。
「東北に生きるということは、長く厳しい冬をいかに生き抜くか、という命題を否応なくはらんでいます。その中で、私たちの先祖は命を繋げる大切な営みとして保存食づくりに勤しんできました。そして保存食づくりに欠かせない発酵は、まさに暮らしを支え、食に多様性という喜びと楽しみをもたらす、無くてはならないものでした。私たちの蔵の主力商品である味噌・醤油はもちろん、秋田名物のいぶりがっこ、意外なところでは稲庭うどんも、発酵の恩恵を受けて保存性とおいしさを叶えたもの。東北が酒どころ・米どころと称されるその理由も、日本酒、そして飯の供における発酵・醸造技術の確かさと豊かさにあるのだと思います」
築100年を超す母屋や醸造蔵、そして庭園を重厚かつモダンにリノベーションした空間は、「発酵」という文化の原点から最新形、そして可能性までを多角的に体感できるよう設えたファクトリーであり、ギャラリー&ラボラトリー。発酵の恩恵を自在に活かした料理やドリンクが楽しめるカフェ、現場を間近に感じることができる蔵見学、発酵から連なる芸術文化を紹介するギャラリーなど、さまざまな角度でその奥深さに触れることができます。
「世界における発酵、その現代的文脈としては、4度も世界一に選出されたコペンハーゲンのレストラン・NOMAがシェフ向けに発酵の調理への応用を記した本を出版したことにあります。結果、トップシェフたちがこぞって発酵を取り入れた料理の開発を進めるようになり、一般化しました。日本が得意とする発酵技術のイニシアチブをコペンハーゲンがとり、NOMAは進化を続けています。その中で日本の伝統産業の存在感を示すために、私は昨年の1月にコペンハーゲンで発酵食品と技術のプレゼンを行ってきています。このようなわが社の取り組みの流れがあり、NOMAの中でも日本のDNAを引き継ぐレストラン・INUAで働くはずだったドイツ人シェフのヨナス(Jonas)が弊社で働くことになりました。また、蔵の2階は茶室とギャラリーになっていますが、いわゆる緑茶は不発酵茶、紅茶やウーロン茶は発酵茶で、お茶の文化にも発酵は大きく関わっています。また、美しい藍染めもまた、発酵の賜物。私たち『ヤマモ』は、暮らしの中にふつふつと息づく発酵の素晴らしさを改めて見直すとともに、世界の食文化と日本特有の発酵調味料との融合を目指し、“Life is Voyage-人生は航海である-”という理念のもとに研究・開発を行っています」
発酵に秘められたポテンシャルを追い求めて

髙橋さんたちの航海は、いま発酵業界に大きな革命をもたらそうとしています。それは、味噌・醤油醸造を行う『ヤマモ』の蔵付き酵母を用いたワインの誕生。
「新たな酵母を見つけることは、新たな天体を発見することよりも難しい、と言われています。まして好塩菌である味噌・醤油の酵母が、味噌醤油発酵を阻害する3%以上のアルコールを醸成させるということは、まさにエポックメイキングでした。これにより、ワインなどのアルコール類に応用することを決めたのです」
創業当時から蔵の味を決めてきた蔵付き酵母。髙橋さんは、それまではタブーとさえされてきた他の蔵の酵母を入れるなど革新的な手法で自らの蔵付き酵母を10年に渡り研究していきます。2020年に新たに発見した特殊酵母を星と鉱物の名前を掛け合わせ「Viamver(ヴィアンヴァー)」と命名。同酵母を特許微生物と国際商標に出願し、日本醸造学会で発表を行います。その結果がこの発酵の常識を変えるほどの展開に繋がったのです。
「ぶどうの果実味はたっぷりと濃く、しかし一般的なワインにはない独特の酸の旨みや奥行きを感じさせる新しい味わい。このワインとのペアリングにふさわしいジビエや、郷土の素材を使った前菜、そしてキャビアにも、独自の発酵技術を活かした味わいを揃えています。東北には、発酵の力に満ちた日本酒や漬物、酒肴、そしてワインにクラフトビール、チーズや天然酵母パンなどがたくさんあります。発酵は、伝統ある食文化を支えるだけでなく、全く新しい、それこそ世界の食に革命を起こすようなポテンシャルをまだまだ秘めているのです」
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PROSLOGION 2020
Viamver(ヴィアンヴァー)酵母発酵ワイン プロスロギオン2020
取材日:2021年4月9日
「東北の発酵情報はこちら」

日本ではめずらしい製法
温泉発酵味噌(青森県大鰐町)
津軽味噌は主に、長期熟成の赤タイプの米味噌で、麹歩合は低く辛口ながら、豊かな旨味が特徴。「津軽温泉味噌」は、大鰐温泉の湯元から引いたお湯を利用して発酵・熟成させる日本ではめずらしい製法。重厚な味わいが評判。

日本酒の原型を仕込んで味わう!
たかむろ水光園「どぶろく醸造体験」(岩手県遠野市)

岩手県遠野市は、通称「どぶろく特区」に全国で最初に認定されたエリア。DC特別企画として、通常1日のところを2日間かけてじっくり醸造体験していただく宿泊プランを用意。出来上がった自分だけのどぶろくは後日届く。

発酵文化の奥深さ!
発酵パーク CAMOCY(カモシー)(岩手県陸前高田市)
発酵パーク CAMOCY(カモシー)は、「発酵」をテーマにした商業施設で、「醸造」の「醸」、「醸す」という言葉が由来。「醸す」とは麹を発酵させて酒や醤油を作ること。発酵なしでは作れない定食やデリ弁当、パン、チョコレート、クラフトビールを販売している。

発酵有形文化財指定
みちのく古川 食の蔵「醸室」(宮城県大崎市)
江戸時代後期より続く酒造店の蔵や母屋を改装した、食の蔵「醸室」(かむろ)。施設内の大小10棟ほどの蔵では、個性的なお店が並んでいる。また、大崎市観光物産センター「DŌZO」では大崎市の特産品も手に入れられる。

深い味わいが人気
蔵王チーズ (宮城県蔵王町)
「蔵王酪農センター」では、「蔵王チーズ」をはじめとするクリームチーズやナチュラルチーズ、乳製品ドリンク等を製造・販売している。同じ敷地内にはチーズ料理のレストランや、ソフトクリーム・チーズケーキなどの軽食施設も。

地域伝統の食文化を発信
発酵小路 田屋 (秋田県由利本荘市)
秋田県由利本荘市にある「雪の茅舎」醸造元が運営する発酵複合施設。敷地内には酒粕、甘酒、奈良漬けなどが買える発酵食品ショップの他、カフェ、ギャラリー、発酵工房も完備。地域と食の魅力を発信している。

漬物王国の味
山形の漬物(赤かぶ漬、おみ漬、ぺそら漬) (山形県)
新鮮な野菜を手間暇かけて漬け込んだ、数多くの漬物が受け継がれている山形県。甘酢で漬けた「赤かぶ漬け」、大根・人参などと青菜の葉を刻んで漬け込む「おみ漬け」、ピリッと辛い茄子漬「ぺそら漬け」など、ひと味違う美味しさに感動。

歴史に育まれた庄内の味
ハナブサ醤油 (山形県庄内町)
「ハナブサ醤油」は、創業約200年の醤油醸造蔵で、「しょうゆの実」「おかずみそ」などでも愛されている。また、向かいには老舗酒蔵「やまと桜」があり、両醸造蔵を90分ほどで巡る見学コースも人気を呼んでいる。

和洋の発酵食品が融合
蔵醍醐クリームチーズのみそ漬(福島県南相馬市)
老舗のお漬物メーカーが作る濃厚なクリームチーズをみそ漬けにしたこだわりの逸品。2018年には、「JR東日本おみやげグランプリ2018」において東北で唯一特別賞を受賞した人気のお土産品。また、併設の甲冑館では相馬野馬追にちなんだ甲冑を見学できる。

美容と健康にも
ウェルカム甘酒(福島県)
福島は全国新酒鑑評会で金賞受賞数8年連続日本一となった日本酒をはじめ、味噌、醤油など豊かな発酵文化が魅力。お宿では、高い評価を受けている日本酒の酒粕を原料とし、美容と健康にもよいと言われる甘酒の提供でお客様をおもてなし。
※多くの観光施設やイベントが新型コロナウィルス感染症の影響で一時閉鎖・中止・延期になっています。状況は日々変動しますので、訪問前に主催者の公式ページでご確認ください。